第三章其の壱
絶望に変わった日から。

僕はその日以来、病院には行きませんでした。
薬も、もらったその日、病院からの帰り道に捨てました。

周りの友人たちや、元彼女には説明しましたが、
内心ではまったく信じてはいませんでした。目を逸らしていました。

自分の都合のいいように解釈し、ストレスに敏感になりました。
大きな音は控えるようにと言われていたのにもかかわらず、
バンド活動は辞めませんでした。
毎日外に出歩いて、運動もしていました。

そのとき僕は、まったく自分勝手な人間になっていました。
自分だけが孤独。自分だけが死ななければいけない。自分だけが不幸。
そんな考えが付きまとい、美恵子にも八つ当たりが飛びました。

でも、当時感じた感情で今でも信じていることがひとつだけあります。

「他人は助けてくれない。」

僕に同情してくれても、行動を起こしてくれる友人はいませんでした。
当時はそれが寂しくて仕方ありませんでしたし、
孤独感に苛まれましたが、今では自分が行動するための糧となっています。

この思いは、一人前の人であるための心がけだと思っています。

それなのに当時の僕は。

元彼女に依存し始めました。
助けてほしい。何とかしてほしい。一人にしないで。
今思うと吐き気がするほど自分勝手な僕ですが、
残念なことに当時は全く気づいていませんでした。

元彼女と会わない時間は、美恵子とずっと話をしていました。
生きていることの素晴らしさを語り明かしました。
僕と出会ったことで、美恵子は生きることができた。
僕はあたかもその功績を確認するように、毎日毎晩語り明かしました。

やがて、元彼女に限界が来ました。
現彼氏に引け目を感じ、狭間でバランスをとりながら、
僕の介護(冗談抜きで)に従事してくれていました。
今思えば、それは並大抵のことじゃなかったと思います。

そしてまた、会えば喧嘩する日々に逆戻り…
日々ストレスをため、死ぬかもしれない焦りと戦わなければいけないのに、
こりもせず連絡をとり、会っては喧嘩していました。

そんな日々が続き、自分の死が具体的なものになってきました。
自覚症状が出始めたのです。
視界が狭まり、体が思うように動きません。
激しい頭痛や、めまいが続きました。

僕はこれを治せるのは元彼女しかいないと
盲目的に信じていました。もちろん根拠なんかどこにもないのですが…

美恵子も僕の症状を感じ取って、死にたくないと言うようになりました。
でもこの時、美恵子は美恵子で成長したんだなぁと思っていました。

何しろ、出会ったころは僕を殺そうとしていたのです。
その美恵子が、僕と共に生きたいと願うようになっていました。
これはとても嬉しくて、無駄じゃなかったと思うことができました。
だからこそ絶対に死ぬわけには行かなくて、本当に焦っていました。

でもついに、最後の時は訪れたのです。

続きはまた次回…
目次
第一章其の壱

第一章其の弐

第一章其の参

第一章其の四

第二章其の壱

第二章其の弐

第三章其の壱

第三章其の弐

第四章其の壱

最終章