第一章其の四
一瞬の躊躇が、美恵子には分かったようでした。

「…怖い?」

少し悲しそうな声。僕は彼女のことを説明しました。
言葉の概念がカナリ変わっているので、伝えるのに苦労しましたが、
分かってくれたみたいでした。

「じゃあ、、、私その人とお話したい!」

とんでもない事をいい始めました。
僕はもともとそういう感覚に優れていたので、美恵子との会話が成り立ちましたが、
彼女には無理に決まっています。僕は悩んでしまいました。

ここで少しお断り。
もう既に十分非現実的な状況なので、フィクションだと思われていると思います。
でも、ホントに僕の身に起きた事です。僕も当時はすんごいビックリしてました。

今までも、これからも書いていくのは、ウソのようなホントの話です。
信じる信じないは別として、馬鹿にしないで読んで頂きたいです。


考える僕に、美恵子がいった言葉。

美「お兄ちゃんって呼んでいい?」
僕「?いいよ?」
美「お兄ちゃんの体借りていい?」
僕「ハァ? 意味が分からん。」

と言うなり、夢から覚めたような現実感に襲われました。
単に夢から覚めたわけじゃないと分かったのは、
全く体が動かず、何も見えず、
美恵子の声だけが聞こえるという恐ろしい状況にいたからでした。
今までのことが夢だったら良いのに…とも少し思いました。

後で聞いたのですが、
美恵子は僕の体を使って、しばらくバタバタしていたそうです。
そして、ある程度慣れてから、僕に話しかけてきました。

「その彼女さんはどこにいるの?」

もう僕は現実を受け入れることにしました。
僕は完全に体を乗っ取られて、しかも彼女に会いに行くらしいです。
会いに行くとかもうカナリ怖かったので、携帯の使い方を教えてあげました。

美恵子はすごーい!とか、ちっちゃーい!とか感動してましたが、
僕は生きた心地がしませんでした。
反面、もうすぐ死ぬんだし良いかぁなんてのん気な気分もありました。

美恵子は教えたとおりに携帯を操って、彼女に電話をかけました。

彼女が電話に出た瞬間、今まで聞こえていた美恵子の声も聞こえなくなりました。
本気でビックリしましたが、もはやなんでもありかと思いました。

しばらくして、美恵子の声が聞こえてきました。
そのしばらくの間、どれだけ恐ろしかったことか…
一生このままだったらどうしようと思って泣きそうでした。

「お兄ちゃんに代わってって言ってるよ。」

そう言われて、急に目の前が明るくなりました。
自分の体に戻ってきたと理解するまでに数瞬かかりましたが、
まだ携帯が通話中だったので、とりあえず電話に出ました。

電話の相手は、彼女ではなく親友のMでした。
なにやら事態は飲み込めているらしく、僕がちゃんと生きられるように
すごい勢いで説得してきました。
後で聞いたら、ものすごいプレッシャーだったそうです。彼にしてみれば
自分の一言で親友が死ぬかもしれない状況でしたから確かにそうでしょう。

彼女から事情を聞き、急いでかけなおしてくれたそうです。
持つべきものは友達だと心底思いました。

とりあえず、もう一度ちゃんと話をするように、美恵子に話してくれたそうです。
礼を言って電話を切ると、美恵子が話しかけてきました。

「…どうする?」

とても悲しそうな、申し訳なさそうな声でした。
このときの僕は事態を理解して、冷静でいられました。

少し考えて、こう話しました。

僕「美恵子は俺の中にいるんだよな?」
美「うん」
僕「しんどくない?」
美「うん」
僕「行かなきゃ行けない所って、今すぐじゃなきゃだめなの?」
美「…わかんない」
僕「別に今すぐいかなくても良いんだったら、俺の中で
  生きてみたら良いじゃん?」
美「?」
僕「10歳なんだろ?早すぎるよ死ぬのは…
  今のところ俺もしんどくないし、一緒に生きていこうよ。」
美「…」(びっくりしてるみたいでした。)
僕「どうしても行かなきゃいけなくなったら、そのときにはまた考えよう。
  大丈夫、なんとかなるよ。」

美恵子は多分泣いてたと思います。

美「…ありがと…ごめんなさい…」

それからMと彼女に電話して、一緒に生きてくことになったと伝えました。
二人ともすごくビックリしていましたが、理解してくれて
美恵子にも「これからよろしくね」と言ってくれました。

こうして、僕の神秘的な生活は始まりを告げたのでした。

続きはまた次回…
目次
第一章其の壱

第一章其の弐

第一章其の参

第一章其の四

第二章其の壱

第二章其の弐

第三章其の壱

第三章其の弐

第四章其の壱

最終章